永遠の花 第24章




「一体どこに向かえばいいの~?」

操縦席に座ったセルフィがスコールに訊ねた。



スコールとアーヴァイン、そしてリノアを乗せたラグナロクは、どこに向かうわけでもなく雲間を縫うように飛んでいた。

ティンバーやガルバディアからの追撃を警戒して、大陸側には近づかず、大洋の上を突き進んでいる。



スコールは、傍らに佇むリノアの手に自分の手のひらを重ねた。
リノアは少し驚いた様子で、彼を見上げる。そして、優しく握り返した。



「・・・・・・・・・イデアの家へ」

(行こう、リノア・・・・・・。俺たちの《約束の場所》へ・・・・・・)




 ◇   ◇   ◇



セントラの入り江に位置するその石の家は、草が生い茂ってはいるが、ところどころ人の手が入れられた跡がある。
通路の草は刈り取られ、かつては外れたままになっていたドアは、今現在取り付けられていた。

魔女大戦の後、クレイマー夫妻の手によって、子どもたちの思い出の詰まったこの家は、少しずつ修繕されたのだ。
クレイマー夫妻からは、この家で育った子どもたちも自由に使ってよいと言われていたが、ここから旅だった子どもたちは、世界を駆け巡り、生憎、ここを訪れる時間などなかった。

キッチンやバスルーム、ダイニングと寝室など、必要最低限の部屋はなんとか使える状態になっていた。
とは言っても、常に人が暮らしているわけではないので、完全に手入れが行き届いたわけではないが。



一緒にラグナロクに乗ってきたセルフィとアーヴァインには「リノアと二人きりにしてほしい」と頼んで、先にエスタに帰ってもらった。

彼らは快く了承してくれた。
スコールとリノアを下ろした後、ラグナロクはすぐにエスタに向かい発進した。

リノアの拉致に関係したと思われるエスタの人間を探すのだと言っていた。


イデアの家に着く頃には、夕日が西の水平線へ沈むところだった。
やがて、このあたりも真っ暗になるだろう。

そうなる前に、二人は石の家の中へ入った。



     ◇  ◇  ◇



部屋の中は暗く、西側の窓から微かに赤い光が差し込む。
スコールはランプをつけた。

ぼうっと、小さな音を立て、部屋の中は温かみのある光で満たされる。


互いの顔がよく見える。


どちらともなく二人は抱き合った。きつく、きつく。

リノアはスコールの首に、すがるように腕を伸ばした。

スコールは何も言わず、ただ彼女の腰に腕を回し、指の腹で艶やかな黒髪を撫でた。

もう、互いに離れることのないように。





リノアは、彼の腕の中で泣きたくなった。

嬉しかった。それと同時に、安心した。

しかし、それ以上に、切なくて、胸が苦しくて、張り裂けそうだった。

彼は、自分のために全てを投げ出したのだ。

地位も、名誉も、これまで彼がティンバーで築いてきた功績も、全て・・・・・・

そのこともつらいが、「自分が彼が守るに値しない存在であること」が、きりきりと彼女の心を締め付けた。



「遅くなって、すまなかった」


「もう、俺のそばから離れるな」


耳元で優しくささやかれたその言葉に、一筋の涙がリノアの頬を伝う。


いっそう彼の胸に顔をうずめて言った。

「ありがとう、スコール」

西に沈みかけていた太陽は全て姿を消し、白い月が闇夜に浮かび始めていた。



   ◇  ◇  ◇



どれくらい時間が経ったのかわからないが、月はほぼ真上に上がっていた。

カーテンのない窓から入る月の白い光は、二人の肌を照らし、青白く浮かび上がらせる。

少し開いた窓からは、波の音がかすかに聴こえる。

リノアは目を覚ました。
あれから、ただ互いの存在を感じるための時間が流れた。
今、生きていることを確かめるかのように。
互いの手を、決して放さないように。



リノアは身を起こし、隣のシーツの膨らみに目を遣る。


「・・・・・・・・・・・・」

自分に背を向ける形で、シーツを纏う彼の姿があった。

シーツの膨らみを規則的に上下させるその姿が愛おしい。薄茶色の柔らかな髪をそっと撫でた。

彼は身を捩った。

はっとなって、リノアは手を離す。


気だるそうにスコールは身を起こした。


「ごめん、起こしちゃった・・・・・・」


「いや、大丈夫だ・・・・・・」


リノアはシーツを胸元にたぐり寄せ、スコールの顔を見つめた。
スコールも同じく、リノアを見つめた。


・・・・・・・・・今なら・・・・・・・・・言える。

この先彼と一緒にいるのであれば、伝えないといけない。リノアはそう思った。

今なら・・・・・・この静寂と月の光が彼女を後押ししてくれる。

「・・・・・あのね、スコール・・・・・・・」
リノアは、その瞳に決意を秘めて、スコールを見つめた。

そのときの彼の表情は、とても切なげで、それでいて優しかった。

やだ、涙が―――。
涙を堪えながら、彼女は言葉を紡いだ。

「・・・・・・言わなきゃ・・・いけ、ない・・・・・・ことが、あるん・・・・・・だけど・・・・・・」

嗚咽を堪えようとすると、胸がつかえる。喉の奥が痛い。
とめどなく涙が溢れ出す。


「・・・・・・ッわたし・・・・・・ずっと、言えなくてっ・・・・・・そこから、・・・・・・逃げてっ・・・・・・」

嗚咽混じりに言葉を紡ぎ出すから、息が苦しい。

スコールは何も言わず、ただ彼女の言葉を待った。

未来が怖くて、今あなたといることも辛くなった。
ずっと、言えなくて、逃げて、
あなたの元を離れた。
あなたを傷つけた。

「・・・ご、ごめん、なさい・・・っ、わたし・・・・・・わたしが・・・・・・あ」

その言葉は、彼の唇の中に飲まれていった。

限りなく優しい口づけだった。

スコールはリノアの両肩に手を添えたまま、身体を離した。



彼は微笑んだ。

そして、リノアを再び抱きしめる。

「リノア・・・・・・」

何か言いたげな、なんとか言葉で紡ぎだそうとする、彼の語り口調。


なお一層強く抱きしめ、彼は言った。

「........気づかなくて、ごめん........」

リノアの黒曜石の瞳が、大きく見開かれ、潤んだ。
その一言が何を意味するのか、リノアにはわかった。

スコールは、次に自分が何を言えばいいのか、考えてなかった。
しかし、自然に彼の内から出てきたのは、次の言葉であった。

「ずっと待っててくれて、ありがとう」


  ◇ ◇ ◇


『全て』が救われたように感じた。

それまで、抱え込んできたものが、音をなして崩れ、リノアは堰をきったように泣いた。

スコールは何も言わず、小さな子供を宥めるように彼女の髪を撫でていた。

嗚咽混じりに、なんとか言葉を絞り出そうとするリノアが言わんとするところをスコールには理解できた。

それを彼女に言わせてしまうのは、あまりにも残酷で、その唇を塞いだ。

唇を離し、互いに見つめ合う形になった。

「............魔女と騎士の契約.......」
突然スコールはその言葉を発した。

リノアは目を見開いて彼を見上げる。

「ずっと、その意味を考えていた.........」
リノアは彼の言葉にじっと耳を傾ける。

「エルオーネの力を借りて、過去.......時間圧縮の世界に行った。うまくいかなかったけど..........過去に行ったんだ」

「昔、エルオーネは俺に教えてくれた。過去は変えられない。でも、過去を知ることで、今は変えられる。変わるのは自分.......過去の出来事ではない.....」

「魔女になったのが分かった頃、リノアは俺に言ったな。『もし、魔女の力が暴走したときは、俺に倒してほしい』と」

「あのとき、俺はやめろと言った。そんなこと考えたくもなかったし、絶対できないって思ってた....」

「でも、変わった。過去を知ることで、俺、変わったんだ.........」

「昔……リノアは『未来なんか欲しくない。今がずっと続いてほしい』と言った。..........もちろん、俺もそう思う。でも、時間は待ってくれない」

「いつかは離れ離れになるときがくる.......死が俺たちを分つときだ.........思い出も、記憶も.......時間の流れとともに、薄まって、消えていくのかもしれない.........」

それは、リノアが最も恐れていることであった。

その感触
そのときの言葉
そのときの気持ち
大人になっていくにつれ
何かを残して 何かをすてていくのだろう
時間は待ってくれない
にぎりしめても ひらいたと同時に離れていく

避けられない別れがやってきて、でも自分だけが取り残される。遙か先の未来まで........
時間は待ってくれなくて―――こんなに大好きなスコールのぬくもり、言葉、気持ち.........
だんだんと思い出せなくなる。
魔力に蝕まれる自分の精神........大いなる力に押しつぶされる..........
そんな未来がやってくるのであれば、今、彼と一緒にいることは辛すぎる..........
わたしを必死に守ってくれる彼に、そんな真実をつきつけたくない。
そして5年前、彼の元を去った。

「リノアが俺やみんなのこと忘れて.........明日が来ることに怯える.......そんな未来がきたら..........そのときは………」

スコールは息を呑み込み、次の言葉を言った。

「俺が………魔女リノアを倒す。それでリノアを救えるのであれば…………俺は……魔女の騎士だから………」
蒼い瞳は決意の光を秘め、真っ直ぐリノアを見ていた。
それが彼の騎士の誓いだった。

その言葉にリノアは、はじめは耳を疑った。
「スコール」

それは、リノアにとって救いだった。

「スコールが..........わたしを.......終わらせてくれるの?」

スコールは何も言わず頷いた。堅く結んだ唇は、彼の秘めたる決意を表し、碧い瞳は滲んでいた。

「うん........そうして..........そうしようね..........」
とめどなく溢れる涙を、どうすることもできなかった。リノアはスコールの胸に頬を寄せる。彼の胸に添えた手から、震えが伝わってきた。あの言葉を口にするのはどれほどの決心だっただろう。

「スコールが終わらせてくれるのなら、もう未来は怖くないよ」
頬を彼の肌にすり寄せ、リノアは涙声で言った。


次にリノアは身体を離して、スコールを見上げた。
「わたしも、いいかな......?」

スコールは優しい表情で頷いた。
リノアは彼の手に自分の手を重ね、言葉を紡いだ。

「このまま時間がどんどん過ぎて、スコールもみんないなくなってしまって..........苦しくて、つらくて、魔女の力に押しつぶされそうになったとき.........魔法を使って、スコールの生きている時代とわたしのいる未来を繋ぐの。わたし、ずっと........あの約束の場所で待ってるから.......スコール、わたしのところに来てね。約束だよ?」
ーーー魔女の誓い。

スコールは目を見開いた。そのとき、頬を暖かいものが伝った。人前で涙を流すなど記憶している限り初めてのことであった。

「リノア........」

ーーーーー時間圧縮。アルティミシアが何をやろうとしていたのか、少しわかった気がした。

「ああ、約束しよう。それで、俺が全て終わらせてやる......!」
声は震えていたが、その決意は揺るぎないものだとわかった。

魔女と騎士の契約が交わされた瞬間だった。

もう、未来は怖くない。
たとえ、恐るべき未来が来たとしても、永遠ではない。魔女であるわたしが時を繋いで、スコールが......魔女の騎士が終わらせてくれる。

スコールはリノアの白い手を取り握り、自分の頬に当てた。そして、全てを射抜くような強い光を湛えた瞳でリノアを見つめた。
吸い込まれるような、それでいて何もかも包み込んでしまうような灰蒼色の瞳。
この瞳をずっと見ていたいとリノアは思った。

「だから、一緒にいよう、リノア。たとえこの先、どんな未来が待っていようと、リノアと一緒にいたいんだ..........本当に離れなくちゃいけない日が来るまで、俺に守らせてくれ...........そばにいてくれ。俺にはリノアが必要なんだ」


「どんなリノアでも.........俺にとっては『リノア』なんだ」
切なく揺れる彼の瞳。

「おかしなこと言ってるかもしれないが..........そうなんだ」

「先のことなんてわからない。俺にとって、大切なのは「今」だから............リノアと一緒に、今を生きたい.........それで、リノアと一緒に明日を迎えたい」

リノアの頬を涙が伝う。

「...........リノア?」
返事を待つように、スコールは彼女の名を呼んだ。


掠れる声を精一杯振り絞ってリノアは言った。

「わたしも.......スコールと一緒に生きたい.........ずっと、ずっと........それで、明日を待ちたい」


そして2人は抱き合った。
もう決して、離れることのないように、固く、固く。

互いのぬくもりを忘れないように。
見つめ合う眼差しを忘れないように。
重ねた唇から紡ぎ出される愛の言葉、そのときの気持ち、どれも忘れたくない。
忘れないように、二人で時を過ごそう。歳を重ねよう。



     *    *    *




「ごめん・・・・・・わたし、泣いてばっかだね」

リノアは最後の涙を拭った。
「ね、目も覚めちゃったし・・・・・・外に出ない?」

彼女は微笑んだ。


  ◇  ◇  ◇


手を繋ぎ、向かった先は、2人の「約束の場所」

少し冷たい夜の風がリノアの黒髪を揺らした。
夜空には星々がちりばめられ、空の真ん中に浮かぶ月は、一面に広がる花を白く浮かび上がらせる。

この場所に来たのは、本当に久しぶりであった。
リノアは、その景色の美しさと、胸からこみ上げる気持ちに、息を吐く。

しばらく、二人で星々を眺めた。

こうして夜空を見ていると、世界には自分たちしかいないかのように感じられた。

しばらくその星空に引き込まれていると、闇夜に一筋の光がこぼれ落ちた。

(あっ!)

「ねえ、見た?スコール」

リノアは夜空を指さし、彼の方を見る。

しかし、彼はリノアに背を向けていた。


(・・・・・・・・・?)
リノアは不思議そうに首を傾げた。


「・・・・・・スコール?」
リノアはもう一度彼の名前を呟く。

そして、彼の肩に手を置こうとしたそのとき、


スコールは振り向いて、リノアの左手首を掴んだ。

「?!」

リノアはその様子を、茫然と見ているだけであった。
彼女の左手は、スコールにより優しく支えられていた。
彼は壊れ物を扱うかのように、彼女の薬指に何かをはめ込んだ。

(・・・・・・・・・これは・・・・・)

まじまじとリノアはそれを見つめる。

控えめな月の明かりによって、彼女の薬指はきらりと光った。

スコールを見上げると、彼は微笑んでいた。
そして、左手の甲をリノアに見せる。

同じように、薬指にはきらめく一つの指輪がはめられていた。


その意味を理解して、リノアは再び目に涙を浮かべた。

笑って応えたいと思って、リノアは堪える涙をよそに、精一杯微笑んだ。



その指輪は、仲間の一人が、あの戦いの後しばらくして、スコールに渡したものだった。

『オレが渡すより、おまえが渡した方がいいと思って』

そう言って、スコールは指輪を受け取った。リノアの指にぴったりのサイズの指輪だった。
この指輪はもともと、卒業後、リノアと共に新しい地に着いたら渡すつもりだった。

時を経て、その指輪は彼女の薬指におさまった。


互いの手の甲を見せ合うように、向き合った二人は、どちらともなく抱き合った。

「リノア、愛してる........」
「スコール.......わたしも.......愛してる......ずっと、ずっと.......一緒にいようね」

ーーーーやがて訪れる別れの日まで。
ーーーーすべてを終わらせる、そのときまで。

夜空に浮かび上がる白い月が、誓った永遠の愛の証人となり、夜風に舞う花びらが、それを祝福していた。



   ◇  ◇  ◇



何度でも、あなたに出会い
何度でも、あなたに恋をする。

たとえ、この世で会えなくても、
時を巡って、あなたを待とう。

迷える旅人を救う、道標として

白い羽根に想いを託そう

そして

時空を超えて、あなたに会いにいこう




   *  *  *



さて、この時代において、歴史に出てきた魔女は主に3人いる。

魔女アデル、魔女イデア、魔女リノア。
魔女アルティミシアという名は残っているが、その存在自体、明らかではない。

魔女アデル、魔女イデアは、それぞれエスタとガルバディアという大国を恐怖で陥れ、支配した。
そして、英雄とも呼ばれる者たちによって、倒された。

魔女リノアに関しては、記録が極端に少ない。
魔女大戦後、彼女はバラム・ガーデンで監察的保護をされていたが、その後どうなったのかは定かではない。
また、魔女リノア以降、魔女の力がどう継承されていったのかも不明である。

魔女は歴史から完全にその姿を消したのである。


先の英雄の一人として謳われた、バラム・ガーデンのSeeDであったスコール・レオンハートは、ガーデン卒業後、ティンバー軍に入隊したが、その5年後、謎の失踪を遂げる。

その理由についてはさまざまな憶測が飛び交う。
ある人は「ティンバーを裏切り、ガルバディアやエスタに寝返ったのではないか」と言い、またある人は「許されぬ恋の末、駆け落ちしたのではないか」と言う。
確実なのは、他人にどう言われようとも、おそらく彼は無関心だったということだ。

彼はティンバーを出た後、セントラを拠点に生活し、古代セントラ遺跡を調査しながら、エスタの魔法研究に協力したとされる。古代セントラ文明は、彼が生きた時代よりも、魔女と人間との距離が近く、魔力というものをもっと身近に感じていたようだ。
彼の研究は多岐に及び、「セントラ文明に伝わる偉大なるハインや魔女に関する伝承」や、エスタのオダイン魔法研究所での「月の引力とルナティック・パンドラ及び大石柱が魔力に及ぼす影響」などさまざまである。最後は「時間圧縮魔法と魔女に関する一考察」を記した。
彼がなぜここまで魔女や魔法にこだわるのかーーーー単純に「自分が戦った相手が何であったのかを知りたかった」ともとれるが、彼の研究の軌跡を丁寧に辿った者は「彼は魔女を救たかったのではないか」という考えに辿り着く。真意はわからないままだが、戦線を退いた後も、彼は後世に大きな功績を残した。
晩年、スコール・レオンハートは、生まれ故郷であるウィンヒルで過ごし、妻、子どもに見守られる中、静かにその生涯の幕を閉じる。
そして、彼の妻も、後を追うように、その1年後に息を引き取った。

彼の妻であった、リノアという女性に関しても多くの謎が残る。彼と同じ時代を生きたリノアと呼ばれる女性は、記録に残る限り2人。
リノア・ハーティリーはティンバー独立を支持するレジスタンスの一員であり、スコール・レオンハートがSeeDであった頃、雇用関係があったとされる。しかし、彼女は後にガルバディアD地区刑務所で処刑されたと記録には残る。
また、リノア・カーウェイは、ガルバディア軍総帥フューリー・カーウェイの娘であった。スコール・レオンハートと近い関係にあるティンバー軍の者の間では、彼とリノア・カーウェイは親密な間柄であったのではないかと噂されたようだ。これが後に、彼が駆け落ちによりティンバー軍を抜けたという憶測につながる。
しかし、リノア・カーウェイはティンバーからデリングシティに向かう途中、列車の脱線事故で亡くなったと、ティンバー警察の記録には残る。脱線の末、列車は炎上した。火災による遺体の損傷が激しかったが、乗車記録により、リノア・カーウェイであると特定された。

また「彼の妻は魔女リノアだったのではないか」という説もある。そうなると、スコール・レオンハートが、生涯をかけて魔女や魔法研究に打ち込んだこととつじつまが合う。

さまざまな憶測が飛び交っており、どれが本当で、どれが偽りであるのかは明らかになっていない。

しかし、彼らの生涯は波瀾万丈のようだが、本人たちにとっては、幸福であったように思える。

その証拠に、彼らがその人生の多くの時間を過ごした、セントラ大陸の入り江のほとりに、美しい花畑がある。
その中に小さな墓が2つ。それぞれに墓標として記されていた言葉はこうであった。

『その気高き魂は獅子の如き 時の戦士にて偉大なる騎士 ここに眠る』

『彼女の微笑みは すべてを導き すべてを照らした その深き愛は 時をも統べるだろう』

今も昔も変わらない、ここだけが永遠かのようなーーーーー

永遠の愛を誓ったこの場所で、咲き乱れる花々が、いつまでも彼らを見守っていた。



《永遠の花》 終