目醒めの森 第9話





「ふうー。けっこうギリギリだったぜ」
ゼルは伝う汗を拭った。
「ほんと〜。もういきなり何なの〜ってカンジだよ〜!」

ゼルとセルフィはスコールと分かれた後、襲いかかるモンスターの群をなんとか振り切って、ゾーン達がいる車に乗り込んだ。そして、その車は安全な場所に退避した。

丘陵地に登った車は凶暴化したモンスターの潜むロスフォールの森を見下ろす。

「さすがにここまでは来ないわね」

キスティスは窓から外を伺い、視線を戻すと、ふうと息をついた。
先ほど、セルフィとゼルから大方の経緯は聞いた。
バラム・ガーデンのSeeDであるシュウとニーダと森の中で出会い、彼らもリノアを連れ出そうとしていたこと。
急に森の中で花が一斉に咲き、その後モンスターが凶暴化したこと。
スコールがリノアを連れて、ニーダやシュウと共に行ってしまったこと。

キスティスは険しい表情で考えていた。

「で、これからどうするよ?スコールはリノアを連れてシュウ達と行っちまったぜ?」

キスティスはスコールよりこちらの指揮を任されてある。一同の視線は彼女に集まる。

「私たちの行動目的はリノアの奪還にあるわ」

キスティスはゼル、セルフィ、アーヴァインを見た。
「もちろんスコール班長と合流するわよ」

その言葉に3人は頷いた。
「了解ッ!」「了解〜!」「りょ〜かい〜!」

「まずはスコール達が向かった方角をめざしましょう。ドール方面........ヤルニ渓谷ね」

そこへワッツの声がした。

「SeeDさんたち!あそこを見るッス!」
ワッツが指をさした。
その先には数台の車両が走っていた。
ロスフォールの森の南側を通り、ドール方面に向かっていた。
こちらはたまたま高台にいるので、気づかれることはなかった。
列を成して、アリの行列のように走る姿は普通の通行車両とは呼べなかった。

キスティスは何か考えて口を開いた。
「ゾーン、ワッツ。あの車両の後ろをついていくわよ。見つからないようにね」

「了解!」「了解ッス!」

  *   *   *

スコールは一人屋根の上に座り、ヤルニ渓谷の谷間、その間から覗く平原と黒い森を眺めていた。
シルベウス達がリノアを取り戻しに動き出したとカーウェイは言っていた。
いずれここに来た奴らを迎え撃つ作戦に参加した彼は、こうして夜風に晒されながら見張りをしていた。

リノアは部屋に戻らせた。
彼女がいなくなった腕の中はやはり寂しく、行き場のない寂寥感では自身の腕を組むしか術はなかった。

ずっと目の前に広がる闇を眺めていたスコールは、そのとき眉を顰めた。
谷間の岸壁から、一際黒い影が見えたのだ。
すぐに双眼鏡を取って確認する。

(来たか........)
闇に紛れ、谷間を縫うように進む数台の車両。
ベッドライトを消して、進路を探るかのようにゆっくりと進んでいる。

スコールは屋根を足で叩いて、屋内の仲間に信号を送る。もう一度、双眼鏡で相手の位置を確認し、屋根から飛び降りて伝うように移動して配置についた。

      *     *     *

スコールの配置は旧炭鉱内だ。敵はおそらく、スコール達と同じように、平原からヤルニ渓谷の崖下の入り口から炭鉱内に入ってくる。スコールはここで敵を足止めするのが役割だ。後ろの配置にはニーダがついて援護する。リノアは建物の奥の部屋に隠れており、シュウと一緒にいる。カーウェイは建物内部で集音機やSeeDたちからの報告で指揮をとるつもりだ。

スコールは炭鉱内の下まで降りて行った。筒状の空洞内をぐるりと張り巡らされた螺旋階段に身を隠す。外から唯一の出入り口である小さなドアをじっと観察した。
音はしない。あるとすれば、湿りきった洞窟内部のどこかで水滴が滴り落ちる音だけだ。

そのとき、外へ通じるドアが少し開いた。
月明かりが少し入ってくる。

(来たな)

ドアが開かれると同時に、スルスルと何かが洞窟内に侵入する。背は低い、人間ではないものだ。
(モンスターを連れてきている・・・・・・)
スコールはニーダに合図をする。
(ニーダ、明かりをつけてくれ)
スコールの合図にニーダはすぐに反応した。
炭鉱内の電灯が一斉に灯る。決して明るくはないが、視野を確保するには十分だ。

洞窟内底部にスコールとニーダは目を向けた。
そして、2人とも同時に顔を顰める。
二十数頭のトライフェイスが蠢いていた。

トライフェイスはスコールを標的に定め、4本の脚で這いながら迫ってきた。幸い、ここは螺旋階段のみで上部の建物とつながっている。スコールはそこに陣取っているため、トライフェイスが一斉に襲ってくることはない。1体1か、せいぜい2、3頭が一度に襲ってくるくらいだ。飛びかかるトライフェイスを斬りつけて螺旋階段真ん中の空洞部に落とす。しかし、生命力の強い彼らは底に落ちてもまた階段を這い上がってくる。
スコールはしばらくそれを繰り返していた。
(クソッ・・・・・・キリがないな)
一体一体は決して強くはないが、いつまでこれが続くのか。ニーダも魔法で支援してくれている。シルベウス達は、先にモンスターを放ってこちらが力尽きるのを待っているのだろうか。
相手は何か時間稼ぎしているようにも思えてくるが、スコールもニーダもここを離れるわけにもいかない。

そのとき、スコールは聞き慣れた銃声を耳にした。
続いて、トライフェイスの硬い皮膚を弾き叩く鞭の音。ヌンチャク特有の鎖音とヒットした時の鈍い音。モンスターの横っ腹に一発くらわす音。

(・・・・・・みんな)
スコールは仲間の気配を感じた。

暗闇の影から、吊るされた灯りの元に最初に顔を出したのはキスティスだった。
「スコール!」

「こっちはなんとかするわ!」
キスティスはそう言いながら鞭を振りかぶって、飛びついてきたトライフェイスの一体をぴしゃんと打って薙ぎ払った。
「それより、上に戻って!シルベウス達は崖を装着型ロボットを使って登っているわ!」

ガルバディア・ガーデンとの攻防戦時にバラム・ガーデンに乗り込んできたパラ・トルーパーのように飛行型ではないにしろ、強靭的な力を補助しているロボットを装着したとすれば、そり立つ崖でも容易に登ることができるだろう。

スコールは苛立ちを隠せず、ぎりっと奥歯を噛んだ。
一刻も早くリノアのいる建物に戻らなければ!

炭鉱の中央部には上に続く滑車がある。スコールはそのレーンのひとつをガンブレードで断ち切った。鉄でできた重りがドスンと底部に落ちた。すると、滑車のレーンのもう一方がするすると落ちていった。反対にスコールが先ほど切った鎖は同じ速度で上に上がる。スコールは螺旋階段から中央の空間に飛び込んだ。そして、上に上がる鎖を掴み、そのままぶら下がった。

一瞬、スコールはニーダの前を通り過ぎた。ニーダは非常に驚いていた。
「下にキスティス達がいる!そのまま援護を頼む!」

スコールはそれだけ言うと、そのまま鎖にぶら下がり、上へ上へと向かった。

 *  *  *


スコールが炭鉱管理棟へ戻る間にも、上部から木材がへし折られる音と壁が打ち破られる音がした。
彼が管理棟へ到着したときには、建物の四分の一ほどの壁は、強化された装着型ロボットのアームによって破壊され、中の部屋が剥き出しになった状態であった。崖側、バルコニーに装着型ロボットが3対、反対に崩された壁の向こうにはシュウが自身の武器である短剣を出して構えていた。
カーウェイは崖を登って現れた襲撃者により、この場を放棄してリノアを連れて逃げることを考えていた。
そして、スコールが突然現れたことに驚いていた。
「下に、ニーダに加えてSeeDが4人います!」
スコールはカーウェイに告げた。
それだけでカーウェイが次の判断をするのは十分だった。
(勝機はある。このまま迎え討とう)
カーウェイはスコールに目を合わせ頷いた。

カーウェイはリノアを庇うよう移動させ自身も胸からピストルを持ち、安全な場所に身を潜めた。スコールはシュウと一緒に対峙する3対の装着型ロボットを見上げた。

(お前たちの相手は俺たちだ)

スコールはガンブレードを構えた。

装着型ロボットは強化された鋼鉄の腕をスコールめがけて思い切り振り下ろした。
スコールはそれを難なく躱した。宙を切ったロボットの重い腕は、床を破壊した。そして、スコールはガンブレードを横薙ぎに斬り付け、同時にトリガーをタイミングよく引いた。
ガンブレード特有の衝撃音が響いた。
ビリビリという音と共に青白い電気が見え、その着る機械ともいえる代物は完全に機能を停止した。どさりと音を立てて装着型ロボットは前のめりに倒れた。

(・・・・・・なんだこいつら。素人じゃないか)
こうもあっさりとやられてしまうとは、スコールは何かを感じてシュウを一瞥する。彼女も同じことを感じたらしく、眉を顰めてスコールを見た。

残る2対もさして苦労はしなかった。1対はシュウが完全戦闘不能状態にしたし、もう1対は訓練された動きではあったが鈍かった。

バルコニーには3対のロボットが崩れていた。

スコールが3対の頭部を順にガンブレードで叩いた。
そうすると、頭部のヘルメットのように覆っていた装甲はガシャンと音を立てて床に落ちた。

1人はシルベウス本人。もう2人は普通の男だった。見たところガルバディア兵ではなさそうだ。おそらく、シルベウスが手なづけたティンバーのレジスタンスだろう。

「っく!」
シルベウスは屈辱に口元を噛み締め、スコールを睨んだ。スコールはその睨みを冷徹な瞳で受け流した。

シュウは装着型ロボットスーツの腹部を短剣で割いて、レジスタンスの男達を引きずり出した。

そのとき、シルベウスは左手からフックガンをまだ破壊されていない壁に放った。
「!」
(崖を降りて逃げるつもりだな!)

シュウもスコールもそれを阻止するため動こうとした。
しかし、シルベウスの動きは次の瞬間ピタリと止まる。

「逃がさないぞ、シルベウス」
シルベウスのこめかみには、しっかりとピストルの銃口が当てられていた。

「か、閣下!」
シルベウスは驚愕した。
まさかここにガルバディア軍総帥がいるとは思わなかったからだ。
シルベウスが狼狽える瞬間を突いて、シュウが短剣でロボットスーツの腹部を裂いた。すると、装着が外れて鋼鉄の中からシルベウスの生身の身体が出てきた。

「っう!」
床の上に投げ出されたシルベウスは呻き声を上げる。
カーウェイは冷淡な瞳で見下ろしていた。

そのとき、スコールは下から人が近づいてくる気配を感じた。気づくと、キスティスたちとゾーン、ワッツが上がってきていた。炭鉱内のトライフェイスの群はキスティス達が全て始末したのだろう。

膝をつきながらシルベウスが立ち上がったところでカーウェイは口を開いた。
「貴様がティンバーのレジスタンスたちと取引した金の流れ、全て見させてもらった」
そう言って、カーウェイは小さなノートを取り出した。

(裏帳簿.....?)
スコールは眉を傾けた。どうして、カーウェイ総帥がティンバーにやってきたのか、つながった気がした。
なぜ、シルベウスが休憩に使うトレーラーハウスにカーウェイがいたのかもわかった。
彼はティンバー戦線の激励や視察に来たのではない。シルベウスの悪事を暴くために来たのだ。
(さらに、SeeDを雇ってリノアを取り戻しに来たというわけだな)

黒い表紙の小さなノートを見て、シルベウスの顔は青ざめた。

「お前がティンバーの一部レジスタンスとつながっていることは十分わかった。それと、お前の目的もな」

険しい表情でカーウェイはシルベウスを睨んだ。そして、そのとなりにうずくまる2人のレジスタンスの男に目をやる。
カーウェイは表情を変えずに語った。

「シルベウスはティンバーを独立させてやると一部レジスタンスに話をして、協力させた」

「独立は独立でも、それがティンバーの市民たちの理想とはかけ離れたものだけどな」

レジスタンスの男たちの表情が曇る。
カーウェイはシルベウスを睨んだ。 

「私がティンバーでの任を解いて、シルベウス将軍を本国に戻そうと提案したとき、貴様は血相を変えて拒否した。ガルバディア本国から優秀な司令官を送ろうと言ったときも反対した」

「そのときからおかしいとは思っていた。さらには、たった5人のSeeDを相手に、ティンバー市街地をあっさり放棄してしまった」

「私は確信に変わってきた。『シルベウス将軍は裏でティンバー独立を誘導している』とな」

「そして、私はティンバーに行ってそのことを確かめようとした。シルベウスのトレーラーハウスに入って調べていたときに、SeeDが幕営地を襲撃し、トレーラーハウスごと奪ってしまうという作戦には驚いたがな......」

「ひそひそ(その作戦考えたの・・・オレなんだよなあ)」
ゾーンがニヤニヤしながら呟いた。
「今は静かにするっス!」
ワッツがしまりのない笑みを浮かべているゾーンを注意した。

「誰もいないとされていたトレーラーハウスには、私が乗っていた」

「ティンバー郊外で捨てられたトレーラーハウスを確認して、シルベウスは焦っただろう。このノートだけがなくなっていることにな」

(俺たちが前線から撤退したとき、ティンバーにいた兵士達はそれを探していたんだな)

「このノートが、ガルバディア本国に渡ってしまっては大変だ。だから、娘のリノアを狙った。ガルバディア軍トップの娘が反政府組織の一員というスキャンダルを使ってな。あるいは、リノアを人質に私を脅そうとしたのかもしれない」

「お前は、ティンバー独立を裏で手引きし、この国の指導者になろうとした。違うか?」

カーウェイの問いにシルベウスは答えなかった。
口元を噛み締め、カーウェイを睨んだままだ。

「長い間ティンバーを管轄するうちに、それがあたかも自分のものであるかのように思ってしまったのだろう。どこぞの大統領のようにな」

カーウェイは皮肉混じりに言った。

「おい..........。今の話、ホントかよ..........」

レジスタンスの男が震える声で言った。

「独立が近いって言うから、あんたに手を貸したのに・・・・・・同じティンバーの人間を出し抜いてまで.......っ」

「独立したって、結局はガルバディアの手下に収まるってことなのか?!」

レジスタンスの男はシルベウスに詰め寄った。
シルベウスが沈黙を続けるということは、すなわち肯定するという意味と受け取った。

「ふざけるなよ........っ!独立につけこんで、ティンバーを.....おれたちの国を奪おうとしてたのかよ?!」

レジスタンスの男に詰め寄られ、シルベウスは一歩一歩後退りする。
バルコニーの端ぎりぎりまで寄っていった。

「おい!なんとか言えよ!」
顔を真っ赤にしてレジスタンスの男は叫んだ。

あまりの興奮ぶりにシュウは手で制止する。
「おい・・・・・・」

そのとき、ふっとシルベウスの身体全体が暗く影に覆われる。

「?」

見上げた時には、もう全てが遅すぎた。

谷底から舞い上がったエルヴィオレが、その異様とも言える巨大な爪が並んだ腕でバルコニーの柵ごとシルベウスの身体を薙ぎ払った。

「ゔあっ!」

バリバリと木製の柵が裂かれる音と共に、悲鳴のような、呻き声のような声を最後に上げ、シルベウスは谷底に落ちていった。

物陰に隠れていたリノアはぎゅっと目を瞑って、起きた出来事に対する恐怖を耐える。

(俺たちを追ってきたやつだな・・・・・・)

スコールとシュウをはじめ、SeeDたちはそれぞれ武器を構えた。
しかし、エルヴィオレはその場で身を翻し、その場から遠ざかり、ヤルニ渓谷の谷間へ飛び消えていった。

「?」
理解できない行動にその場にいたSeeDたちは不思議に思ったが、とりあえず難は去った。この一連の事件の首謀者もろとも谷に消えていったわけだ。各々、ほっとしながら武器を下ろす。

「くそっ!ティンバーはこのままどうなっちまうんだ?!」
レジスタンスの男は、今度は相手を変えてカーウェイにも詰め寄った。そのまま殴りかかってしまいそうな勢いだ。

「待て、落ち着くんだ」
シュウが男を抑えた。

「シルベウスの悪行を暴いたのだって、このカーウェイ総帥だ。カーウェイ総帥には、独立後もティンバーを支配しようなんて意思はない」

カーウェイはレジスタンスの男を見て、ゆっくり頷いた。
「..........ティンバーの受難は、独立の前よりも、その後にあると私は考える」

長い間支配された国が自力で立ち上がる、その大変さは、なんとなくスコールは理解できた。
一瞬、ある国の大統領の顔が思い浮かんだ。

「一国を立て直すのは、大変なことだ。君たちにその覚悟はあるのかね?」
カーウェイは厳しい目でレジスタンスの男を見た。

しかし、男は動じなかった。唇を固く結んで力強く頷いた。
「もちろんさ!おれたちは、自分の足で立ちたいんだ」
その言葉に続くように、前に乗り出したのはゾーンだった。
「どんな苦難も乗り越えてみせるさ。.......ティンバー独立を目指して死んだ仲間........親父たちに顔向けできねえ.......」

「ティンバーのみんなで助け合って、どの国も羨むようないい国にするっス!」

先ほどまで敵対していた者たちが、互いに顔を見合わせて笑って頷いた。

その様子をカーウェイは目を細めて見つめる。

「それを確かめたかった。自分自身の目でな.......」

そして、一呼吸おいてカーウェイは口を開いた。

「ティンバーはまもなく独立する。魔女が支配する時代は終わったし、エスタはガルバディアにとって脅威の対象ではない。おまけに、ティンバーを治めていたシルベウスも「戦死」した。停戦の理由は十分にある」

「もはや、戦争する力など残ってないのだ。ガルバディアには・・・・・・」

そう言って自嘲気味に少し口元を緩めた。

「頼んだぞ。ティンバーの若者たちよ」

その言葉に、ゾーンとワッツ含め、レジスタンス達の表情が明るくなった。

東の空から太陽が顔を出し、そこにいた皆の顔をオレンジ色に照らした。



《目醒めの森 第10話》へ続く