永遠の花 第20章




ここはエスタ大統領官邸の執務室である。

「……というわけだ」


スコールはこれまでのいきさつを話し終えたところであった。


部屋の中にはラグナ、キロス、ウォード、そしてエルオーネがいた。
この大統領の仕事も、おおかた片付いたようなので、こうしてみんなそろって、これまでの情報を共有したのだ。

ここで、キロスが口を開いた。
「クーデター首謀者のジョセフ・ロバートやリノアを襲ったエスタ人と思われる人間については、現在調査中だ」

一方、ラグナはしかめっ面をして、腕を組んでいた。

ウォード(ラグナ君、どうしたんだ?)
ウォードの心の声に気づき、ラグナは頭を掻きながら言った。

「いや、どーも引っかかるんだよなあ」



「何が?」
スコールが尋ねた。


「おれ、このジョセフ・ロバートと前に会ったことがある気がするんだ」


(何?)
スコールが眉を寄せる。

「うーん、かなり昔だ。・・・・・・・・・エスタで会っているんだ」
ラグナは腕を組み、天井を仰ぎ見た。

「それは確かなのか?ラグナ君」

「ああ、間違いないぜ。時間が経ったから、だいぶ老けちまっているが、確かにエスタで見たぜ」
ラグナはスコールから受け取ったジョセフ・ロバートの写真を睨んでいた。


「じゃあ、その人、元々はエスタの人なのかしら?」
エルオーネがつぶやく。


「いや、エスタの人間ではない。エスタに連れてこられた人だ!」


「捕虜ということか?」
スコールが尋ねた。

「そうだ!まさしくソレだ!オレやキロス、ウォードと同じように捕虜だったんだ!」

キロスは一歩ラグナに近づいた。
「我々が、エルオーネを探しにエスタに侵入し、捕まって、ルナティックパンドラ研究所だかなんかで働かせられたときのことか?」


「ああ、そうだ。そこで確かに見た。ま、そいつは、途中から違う場所に行っちまったがな」
ラグナは真顔で頷いた。そこから、彼の真剣さが伺われる。


「…………その時代のデータと照合してみよう。調べる範囲が狭まれば、早く情報が掴めるかもしれない」
キロスは通信機を手に取り、指示を出した。


(ラグナの言う通りであれば、ジョセフ・ロバートとエスタのつながりが見えてくる)
スコールは執務室の幾何学模様の床に目を落とした。


キロスは通信機を切り終えて、皆の方を向いた。

「データの照合には少し時間がかかるそうだ。なんせ、25年以上も前のデータだからな」


「そのクーデター首謀者のことは、任せるとして………リノアは大丈夫なの?スコール」
エルオーネが不安な光を瞳に浮かべ、スコールに尋ねた。



「暴走はすぐに収まった。身体的には特に異常もないように見えた」
スコールはエルオーネの問いに冷静に答えた。


「でも…………」
それでも、エルオーネは不安そうにつぶやいた。



(分かっているさ。精神面ではかなりダメージが大きい)


「魔女リノアはどこでおじゃる?!」

オダインは突如現れ、辺りを見回して叫んだ。



「リノアは、ここにはいない」
スコールは答えた。



「?!魔女がいないと、研究ができないでおじゃる!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、オダインは駄々をこねた。


(そうは言っても………)



「はあ、はあ、はあ………博士!急ぎ過ぎですって!」


オダインの後を走ってついてきた、助手と思われる白衣の男性が言った。



「オダイン博士は、大統領から連絡が入ってすぐ、こちらへ駆け出していったのですよ」

助手は息を整えていた。


「魔女が暴走したと聞いて、ここに来たのに、魔女がいないでおじゃる!魔女がいなければ、研究ができないでおじゃる!」

オダインは再び飛び跳ねた。


「オダイン博士がおっしゃるとおり、魔女自身がこの場にいなければ、どうにもできません」
助手はオダインを補足するように言った。


「確かに、オダインバンクルの性能向上や、魔女の暴走の解明を進めたいところだが、リノアをエスタに連れてくるのは現実的に難しい」
リノアが魔女であることはトップシークレットであるし、彼女は今はカーウェイ総帥の娘としてティンバーに滞在しているのだ。
スコールの眉間の皺が深く刻まれた。


……………………………。

沈黙が流れた。


この沈黙を破ったのはエルオーネだった。

「…………これ以上、話しても答えは出なさそうね。今日はこのへんにしておきましょうよ。スコールも少し疲れているみたいよ」


その場にいた全員は黙って頷いた。


      *  *  *


スコールは、大統領官邸内のゲストルームにいた。
ラグナやエルオーネに食事に誘われたが、「疲れている」と言って断った。
そんな気分にもなれなかった。



スコールはベッドに腰をかけて、俯いた。
(クーデターの首謀者ジョセフ・ロバートはなぜリノアのことを知っていたのか………)

スコールは首を振った。
(いや、そんなことを考えたいんじゃない………)

さっきから、頭から離れないことがひとつある。
(………エルオーネ)

エルオーネに頼めば、リノアがなぜ5年前に自分の元を去ったのか分かるのではないか、この考えがエスタに着いてからスコールの頭の中から離れなかった。

時計は午後10時を示していた。今なら、まだ彼女は起きているだろう。
彼女の特殊な力で、自分をリノアの過去に送り込めば、なぜ彼女があのような決断が出来たのか、きっと知ることができる。


スコールは深い溜め息をついた。

知ってどうする?
知って、それでリノアは帰ってくる保証があるのか?
それで、リノアが幸せになるのか?

(…………何を考えているんだ、俺は・・・・・・・・・)


ベッドの端に腰掛け、ぐっと膝の上で両手を組んで俯いた。

ふと、自分の指にはめられた指輪に目を落とした。
この指輪は、彼女がチェーンに通してネックレスとして身につけていたものであったが、5年前返されたものであった。

あれは、ガルバディア・ガーデンとの戦いの前。
まだ、自分が彼女に想いを寄せるとは到底想像できない頃。


『ふぅ~ん。そういう名前なの』

『あのね、ゼルがこれを見ながら同じの作ってくれるんだよ』

『そしたら、わたしもがんばってみる。ライオンみたいになれるように』


ゼルにいきなりこの指輪を貸してくれとせびられたのが始まりだった。
まさかその指輪がリノアのところに行き渡っているとは思わなかった。
それにどのような意図が含まれているのか、お節介な仲間たちの世話焼きを煩わしいと思う反面、それにどこかくすぐったさのようなものも感じていた。もっとも、その気持ちの正体に気づくのはもう少し後になるのだが。

しかし、その日から、この指輪は二人にとって特別なものになった。

『それ、返さないでいなくなるなんてできないもん』

かつて彼女はそう言った。

5年前、それが返されるということの意味は、彼にもよく理解できた。


ティンバーに来て、早くも5年の月日が流れた。

ガーデンを卒業して、地位、名誉、功績・・・・・・着実に得ているのにーーーーー。

この胸の痛みは、幼少の頃、姿を消した姉の存在を探していた自分と同じであった。



(…………変わっていないじゃないか)


(…………強くなると誓ったはずなのに)



彼は自分に言い聞かせようと、手にはめられた指輪をぐっと握りしめた。


(グリーヴァ………)

それは、この指輪に施された伝説の獣に名付けられた名前だった。


  ◇ ◇ ◇


『かっこいいもんね、これ。なんてモンスターがモデルなの?』


『モンスターじゃない。想像上の動物……ライオンだ。とても強い。誇り高くて……強いんだ』

『誇り高くて……強い? スコールみたく?』

『そうだといいけどな』


『このライ……オ…ン? って、名前はあるの?』


『勿論さ……グリーヴァ』


『ふぅ~ん。そういう名前なの』

『あのね、ゼルがこれを見ながら同じの作ってくれるんだよ』

『そしたら、わたしもがんばってみる。ライオンみたいになれるように』



  ◇ ◇ ◇



そう、自分と彼女だけが知っている、この伝説の獣、グリーヴァ。
かつて、自分はこのグリーヴァのように強くなると誓い、彼女も同じことを言った。
二人だけが知っている、特別な名前ーーーーー。




二人………?


ここで、スコールは背筋が凍り付いた。




……………それだけじゃない。


もう一人いる。



スコールは自分の鼓動が早くなるのを感じた。


『その存在』は確かに言った。




スコールは、自分の鼓動がだんだんと早くなるのを感じた。




時間圧縮された世界の中で、確かに彼は聞いたのだ。


『おまえの思う、最も強い者を召喚してやろう』
『おまえが強く思えば思うほど、』
『それは、おまえを苦しめるだろう』



『ふふっ 記憶がなくなる?』
『本当のG.F.の恐ろしさはそんなものではない』
『G.F.の真の恐ろしさ、きさまらに教えてやろう』
『その力、見せてやれ! グリーヴァ!』


(………どうして知っている)



自分が、その名を教えたのは、リノア………。

彼女だけだ。



それなのに………




一度走り出した思考を止めることはできなかった。


気がついたら、車のキーを手にして、ドアを飛び出そうとしていた。


足早に地下の駐車場に向かい、焦る気持ちにもどかしさを感じながら、車にキーを差し込む。




(エルオーネ………)

(いつだったか、過去は変えられないと言ったな)

(でも、過去を知ることで、それまでとはちがった今が見えてくるとも言った)




(それなら、俺に出来ることは………)



焦る気持ちを抑え、ハンドルを操作し、その車体はスピードを上げた。


    *   *   *


スコールは、エルオーネの暮らすエスタ市街のマンションに向かった。

この夜のエスタは、珍しく大雨が降っていた。時折、雷の悲鳴が大気を振るわせた。

そんなものに構わず、彼は自分が姉と呼ぶ人の元へ急いで車を走らせた。



  ◇  ◇  ◇


彼女の家は、エスタの市街地から程よく離れたところにある住宅街に位置していた。
もう、時刻は真夜中を迎える頃である。

インターホンを押すと、驚いた様子のエルオーネの返事が返ってきた。

「………スコール?どうしたの?」

エルオーネは、スコールにタオルを渡した。

スコールは自分が雨に濡れていることに気づいた。
車を停めて、ここに来るまで、傘も差さずにきたのだ。


エルオーネは寝床につくところだったのだろう。寝間着に上着をかぶっていた。
彼女はスコールを居間へと招き入れた。

「エルオーネ、お願いだ」
スコールは掠れた声で言った。

自分の知らない過去を知るのは、怖い。

「俺を、過去に………時間圧縮された世界に送ってほしい」


エルオーネは、懇願する彼の瞳から、ただならぬものを感じた。
子犬のような、すがる瞳。あの頃と変わっていない。


「………時間圧縮されたときに?..........スコール、わたし、うまくできる自信がない」

「たぶん、うまくいかないと思う」
エルオーネ曰く、過去に送り込むには、イメージが必要なんだそうだ。
人、時間、場所・・・・・・イメージして、人の意識を過去に送る。
時間圧縮のような混濁したものをイメージすることは不可能に近い。

「それでもいいんだ、頼む」

「でも、スコール。過去を変えることはできないのよ」
エルオーネは彼の顔を伺いながら、ゆっくりと言った。

スコールは黙って頷いた。

「過去を変えることが出来なくても…………」

「今、後悔したくない」


スコールの蒼い瞳は、決心とも言えるべき炎を秘めていた。



「分かった。やってみる」


エルオーネは意識を集中させた。

やがて二人の意識は、混沌とした闇の中に飲まれていった。


     *  *  *


・・・・・・潮気を含んだ風・・・・・・子どもたちの声・・・・・・・・・


(スコール、うまく、コントロールできない・・・・・。時間圧縮された世界に行くのはやっぱり難しいみたい)


「おい!スコール!お前いいもん持ってんな!」


視界が変わったとき、目の前にいたのは小さな身体のサイファーだった。

セントラの半島の白い家。
そこはイデアの家だった。
さざ波の音が聞こえる中、サイファーは子どもたちの寝室のベッドの上からこちらを見下ろしている。

「俺に見せてみろ!」


「嫌だ!」
スコールは声を荒げて反抗している。

「生意気だな!俺によこせ!」
サイファーがベッドから飛び降りて、スコールに飛びかかってきた。

「やめろ!」
スコールは手に納めた『何か』を、サイファーに譲るまいと必死に守っている。


床でもみくちゃになっていると、頭上に誰かの陰が差した。


「やめなさい。ふたりとも。これで喧嘩はおしまいです」


凛としていて、それでいて暖かみのあるこの声は………

(ママ先生だ……)

取っ組み合いになっていたスコールとサイファーをイデアは引き離した。




「ちぇ」

サイファーは、腕組みをして、ふてくされていた。


スコールは、うつむいて外へ飛び出した。

「!!スコール!」
ママ先生は急に飛び出したスコールに気がついて、後を追った。



スコールは、いつもの場所に座っていた。

ここは、イデアの白い家の入り口のすぐ外。

離ればなれにされてしまった姉に、強い自分でいることを誓う場所であった。

幼いスコールはぎゅっとその『あるもの』を両手で握りしめて胸に当てていた。


「スコール」


優しく自分を呼ぶ声が聞こえる。

スコールは小さな背中を丸めて、黙っていた。

イデアはその小さな背中の横に座り込んで肩を並べた。



「とっても大切なものなのね」
彼女は優しく微笑みながらスコールの顔を覗き込んだ。


スコールはこくんと黙って頷いた。



「僕の大切なものなんだ。これはお守りだから」
ぎゅっと一層握りしめた拳に力が入った。


「お守り?」
イデアは彼が言わんとするところをどうにか掴もうとしていた。

「ぼくがもっと強くなれるように…そのためのお守りなんだ」


イデアはそう言うスコールをじっと見つめた。
傷だらけの、その小さな背中に秘めたその決心が、痛々しかった。


「そう。じゃあ大切にしなきゃね」

そう言って、スコールの頭を撫でた。

「もう、誰もあなたの大切なものを取ろうとしないわ」

イデアは立ち上がって後ろを向き、部屋の中へ入っていことしていた。


「まま先生!」
スコールはその幼い声で、イデアを呼び止めた。


「何?」
彼女は優しく目を見開いてスコールを見た。



「これ……、何かの動物だと思うんだけど、なんだろう?」

スコールはもっていた『あるもの』を左の親指と人差し指でつまんで、イデアに見せた。

それは指輪だった。

(これは……)

「これは………」
珍しそうにイデアはその指輪をスコールから受け取り、いろいろな角度から眺めてみる。


「ライオンよ」

そう言うと、スコールにその指輪を受け渡した。

「……ライオン?」
スコールは聞き慣れない言葉に首を傾げる。

「そう。それは、想像上の動物なの。誇り高くて、強いのよ……」


「誇り高くて、強い……」
スコールは無心でその言葉を繰り返した。

イデアは微笑みながら頷き、スコールに背を向けて部屋の中へ入っていった。

幼い少年はイデアが部屋の奥へと入って、その気配がなくなった後も、ずっとその指輪を眺めていた。

  ◇  ◇  ◇

夕食を済ませた子ども達は、子供用のベッドが並ぶ部屋で、寝支度をするところであった。

幼いスコールは、開けられた窓の枠に寄っかかっていた。
姿を消した姉に思いを馳せる。
強くなると誓ったはずなのに、やはり寂しい気持ちがじんわりと湧き上がる。
そこで何か、思い出したように、ポケットをまさぐる。

「あ、そうだ。指輪・・・・・・」


「あれ・・・?」


確かにポケットに入れたはずなのだが、それがない。

何度も手で確かめ、自分でもポケットの中をのぞき込むが、ない。

「ん?」
何かが指に当たる感触。指輪ではないものが。

その代わりかのように出てきたのは1枚の白い羽根だった。

幼いスコールは、不思議そうにその羽根を見つめる。

「あっ!」

そのとき強い風が吹き、指の隙間から、白い羽根を奪い去ってしまった。


そこで、スコールの意識は一瞬闇の中に連れ戻される。



  ◇  ◇  ◇ 


再びスコールの意識は戻ってきた。

また変わらず、磯の香りと波の音で辺りは包まれていた。


「おねえちゃんを探すんだ!」
幼いスコールは白い家から勢いよく駆け出していた。


「スコール!」

後ろからイデアが自分を呼び止める声が聞こえる。

「スコール! どこへ行くの!?」

(……ママ先生)

その後、幼いスコールはエルオーネを探しに行った。しかし、イデアの白い家の敷地の外に出ることはなかった。怖くて外の世界に出られなかったのだ。

辺りを探して、とぼとぼと再び白い家に歩いて戻るのが幼いスコールの日課だった。

海岸・・・・・・灯台の裏・・・・・・庭・・・・・・一通り探して、彼は再び家に戻った。


「……ママ先生」
幼いスコールは、イデアを見上げる。

「……おねえちゃん、いないよ」

「……ぼく、ひとりぼっち?」

「あの人、だ~れ?」

「あなたには関係ないの。あなたは知らなくていいの」
「ここにいてもいいスコールは あなただけよ」


イデアは幼いスコールの頭を撫でた。

そして、白い家の中へ戻っていった。

そのときの、イデアの横顔はなぜか青ざめ、こわばっていた。

普段見せないようなその表情を幼いスコールは不思議そうにみつめた。

「あの、お兄ちゃん、いなくなっちゃった……」

急に姿を消し去ってしまった人物がいた、その場所へスコールは向かった。



「やっぱりいない……」


スコールはきょろきょろとあたりを見回した。

「ん?」

何かを見つけたようで、幼いスコールはその元へ走り寄った。

それは太陽の元、鋭く輝いていた。

そこは先ほどまでここにやってきた、未来の魔女アルティミシアが消えた場所だった。

幼いスコールはその光り輝くものを手に取ってまじまじとみつめた。

「指輪……? 」

(指輪……?)

(なぜ、ここに落ちている……?)

まるで、アルティミシアが消えた途端にそれは現れたようだった。

幼いスコールは、それを手に取り、太陽に掲げた。
「これ……なんの動物かなあ?」


(……そんな…………)



  『……そうだ……指輪、返さなくちゃね』


『まだ……消えるわけには……いかぬ」
      

  『それ、返さないでいなくなるなんてできないもん』



再び意識は遠のいた。

(スコール・・・・・・?スコール!・・・・・・やっぱり時間圧縮された世界に行くのは無理かもしれない・・・・・・)
エルオーネの声が意識の奥で響く。

(最後に、もう一度やってみるね)

暗くなった意識が覚醒する。


(・・・・・・ここは?)
先ほどまでとは明らかに違う。

そこは、まさに、《無》という言葉がふさわしい場所だった。

スコールは、閉ざされつつある空間に、佇んでいる。

どちらを向いても《無》

行き先もない。

どんどんと記憶が失われている。自分のこと、仲間のこと・・・・・・そして、一番大切な存在も・・・・・・

座り込んだ彼の元に、どこからか1枚の羽根が舞い込んだ。


(―――もう、ダメみたい。接続―――切れそう)

(いいんだ、エルオーネ)



その握りしめたその白い羽根に、確かに『彼女』の気配を感じたから―――。


  *  *  *


「……コール、……ール」

誰かが名前を呼んでいる。

「スコール!」

目が覚めたとき、驚くことに夜が明けていた。


「私たち、ずっと眠っていたみたい」
エルオーネは、カーテンを開けた。東から差し込む朝の光が鈍い頭には眩しかった。

スコールはソファーから起き上がった。

「…………これでよかった?」
エルオーネが心配そうな眼差しを向けて問う。

スコールは黙ったままだった。
何か決意とも言える想いを胸に秘めているようだった。

「………スコール?」

反応のない彼に、エルオーネは不安そうに呼びかける。

「ありがとう、エルオーネ。………何をすべきか、いや、俺が今何をしたいのか分かった」

「?」

エルオーネは不思議そうな顔をした。彼の真意を掴みかねていた。

「ティンバーに戻ったら…………リノアに会いに行く」


そう言った、スコールは、

エスタの東海岸から昇る朝日に照らされて、

少し開け放たれた窓からの風によって、薄茶色の髪はなびき、

蒼く光る決心と言うべき炎を宿した瞳は、東の大洋の向こうを見つめていた。

その姿は、

誇り高くて、強くて…………

(……ライオン)
エルオーネは彼の姿を伝説の獣に重ねた。




永遠の花 21章》へ続く