永遠の花 第14章





リノアは場所をガルバディア大使館の一角にあるゲストハウスの自身のために用意された部屋にいた。

特にやることもなく、持ってきていた本を椅子にかけて読んでいた。
その部屋は、木製の家具と陶器の調度品に整えられ、先ほどまで滞在していたホテルとも劣らないくらいよい部屋であった。

ガルバディア国内でクーデターが発生し、危険なため、ティンバーにやってきたリノアは、そのままこの国にとどまることになったのだ。
しかし、彼女の父親はガルバディア軍の最高責任者であるため、クーデター鎮圧の指揮をとるべく、ガルバディアに戻っていった。ティンバーにやってきた多くの軍・政府関係者もガルバディアに戻ってしまった。

ティンバー国内に留まって、リノアの知る人は、カーウェイのエージェントを務めるアーヴァインと、ガルバディアの高級官僚であるアレン・ローバトだけである。しかし、彼らもそれぞれの仕事があり、リノアを大使館に送ると、そのままどこかへ行ってしまった。

(・・・・・・一人で過ごす時間、長いな・・・)

今、ガルバディアがどうなっているのかもわからない、いつになったら帰れるのかもわからない。
いくら心配しようとも、自分は何もできない。

ため息をついて、用意されたティーカップにをつけ、紅茶をすすろうとしたーーー

そのとき

ドーーーーーン!!!!

何かが爆発する音が聞こえた。

?!!

音の大きさからするに、かなり近いところではないか?


リノアはドアを少し開け、自身のために用意された部屋から顔を出す。

大使館の職員が廊下でばたばたと慌ただしく走る音が聞こえる。

廊下を横切ろうとした職員の一人と、廊下を眺めるリノアの目が合った。

「あっ!」

その職員は、慌ててリノアの元に駆け寄る。

「まだ部屋にいてください。今、状況を確認していますので」
その職員は、焦った様子でリノアを部屋の中に押しとどめようとした。

「・・・・・・何が、あったんですか?」

リノアは不安げな表情でその職員に尋ねる。

大使館職員の男性は、困ったような表情をした。

「くわしいことはまだわかりませんが、大使館の庭に爆発物か何かが投げ込まれたようなんです」



爆発物という物騒な言葉に、リノアは眉をひそめる。

「とにかく、まだここにいてください。もう少し、状況がわかりましたら、お知らせしますから」

そう言い残して職員は足早にその場を去った。


      ◇   ◇   ◇


リノアは再び先ほど座っていた椅子に腰掛けた。
しおりがはさまれた本が目に入ったが、読む気にはなれなかった。

窓の外の一点をただ見つめていた。

ティンバーに来てから、いろいろなことが起こりすぎている。

予期せぬ再会。
故郷が危険な状態になり。
滞在先には爆発物が投げ込まれる。

考えても仕方ない。
リノアは思考を放棄するかのように、瞳を閉じた。


    *   *   *


ピンポーン


チャイムの音で目が覚めた。

いつの間にか、椅子に座ったまま眠っていたらしい。

ぼんやりする意識を奮い立たせて、リノアはドアを開けた。
ドアの前には、女性の大使館職員が立っていた。

「お休みのところ、申し訳ありません。ロンメル大使からお話があるそうです。応接室にお越しいただけますか」

 
     ◇  ◇  ◇


職員について行き、リノアは大使館内の応接室についた。

ロンメル大使はすでに部屋におり、心配した様子でリノアを見た。


「お嬢様、先ほどの大きな音で驚いたことでしょう。ひとまず落ち着いたので、何があったのかをお伝えしようとお呼びしたのです」
大使にソファーに座るように促され、リノアは腰をおろした。
大使もソファの向かいに座った。
「・・・・・・何者かが大使館の庭に、手榴弾を投げたのです。幸い怪我人はいませんでしたが」

「ティンバー警察に調査を依頼し、犯人を捜してもらっています」

「それと・・・・・・」



「・・・・・・お嬢様の護衛のために、ガルバディアから応援を呼ぼうといたしましたが、鉄道がクーデターの影響で爆破されて、それもかないません。それで、ティンバー軍が護衛につくことになりました」

(ティンバー軍が護衛につく?)

例のない事案に、リノアは眉をひそめた。

そのとき、応接室のドアがノックされた。
ロンメル大使が返事をすると、アーヴァインが入ってきた。


「リノア!」

アーヴァインがリノアの元に駆け寄った。

「無事で良かった。ガルバディア大使館に爆発物が投げ込まれたってスコールから聞いて、心配してたんだ」

大急ぎでこちらに向かったのだろう。アーヴァインはうっすら額に汗を浮かべながら言った。


「スコール?」

リノアはきょとんとした。

「うん、大使館で会っていないかい?」

リノアは複雑な面持ちで頷いた。

「彼が居たの?」



ロンメル大使にリノアは目を向けた。

「はい、クーデター鎮圧のガルバディアとの提携作戦のため、いくつか必要な手続きがありまして、先ほどまで、この部屋で私と話していたのです。そのとき事件が起こったのです。幸い、お嬢様は爆発物が投げ込まれた場所から一番離れているゲストハウスにいらっしゃいました」



「………そう」



会うことはなかったが、彼は大使館に来ていたのだ。

先ほどまで、ここにいたのだ。


    *   *   *


アーヴァインは、心底ほっとした。
ガルバディア大使館のリノアの無事な様子を見たときに。
いずれやってくるであろうティンバー軍の護衛よりも早く、リノアに合流できたから。

アーヴァインは、ティンバーでガルバディアのクーデターと関係があるであろうレジスタンスの調査をしているとき、突然スコールから連絡があったのだ。

       ◇   ◇   ◇


『・・・・・・スコール?どうしたんだい?』

『アーヴァイン、今どこにいる?』

『どこって・・・・・・ティンバー市街、テレビ局の近くだけど・・・・・・何かあったのかい?』

『そこまで離れていないな・・・・・・すぐにガルバディア大使館に来てくれ』

『・・・・・・?どうして?』

『先ほど、ガルバディア大使館に爆発物が投げ入れられた。簡易的な手榴弾だ』

『何だって?!』
(大使館にはリノアがいるじゃないか!)

『・・・・・・投げ入れられた場所は庭で、爆発も比較的小さい。人的被害はない』

(ああ、よかった)

『それと、ロンメル大使は護衛の強化を本土ガルバディア軍に要請したが、却下された。そのかわりに、ティンバー軍がリノアの護衛につくことになったんだ』

『・・・・・・なんだって?・・・・・・ティンバー軍って、スコール、キミが警護にあたるのかい?』

『いや、違う。俺はすぐに準備して、鎮圧作戦のために国境に行かなければならない』

『・・・・・・・・・そっか。わかった。スコールを信じていないわけではないけれど、正直、ティンバー軍にリノアを任せっきりにするわけにはいかない。僕ともう一人ガルバディアの高級官僚が今ティンバーに残っているんだ。だから、どちらかが必ずリノアのそばにいるようにする』
元植民地だった軍隊に、元宗主国のトップの令嬢の警護を任せる。未だにティンバーにはガルバディアを恨む者もいるのだから、何か起こるかも知れない。

『・・・・・・そうするほうがいいだろう。二人で交代して、リノアの近くにいれば、それぞれの任務もある程度は遂行できる』
       
『そうするよ』
 
『・・・・・・それと、ティンバー軍の中には、ガルバディアの混乱につけ込んでくるやつもいる。第4部隊のウィクレーには用心してくれ。ガルバディアの情報を掠め取ろうとしているから、リノアとロンメル大使にはあまり近づけない方がいい』

『OK。注意するよ』

『・・・・・・そろそろ切る。・・・・・・・・・リノアのこと頼んだ』

そこで、スコールとの通信が切れた。


 ◇   ◇   ◇


アーヴァインは、ロンメル大使と今後の対応について協議することにした。
リノアは気を遣って、再びゲストハウスに戻って行った。

その途中、応接室のドアが再び叩かれた。

ティンバーの軍服に身を包んだ長身の男が入ってきた。

「私、ティンバー軍第4部隊、隊長のウィクレーと申します。カーウェイ令嬢の護衛を拝命いたしました」

ウィクレーは緊張した面持ちで敬礼をした。

「・・・・・・ガルバディア大使館は依然危険な状態です。再び何か起こるかも知れません。少なくとも、今回の事件の犯人が捕まるまでは、ご令嬢は他の場所に滞在した方がよいとティンバー軍は提案します。ティンバー市街地にホテルをご用意しております。ガルバディアとの鉄道が復旧するまで、ご令嬢にはそちらに滞在していただきます」

「・・・・・・・・・」
ロンメル大使はいささか不服そうであった。すぐに承認することができない。
リノアを完全にティンバー軍に任せてしまうのは、疑問が残る。
しかし、ウィクレー隊長の言うことも一理ある。

アーヴァインは険しい表情のロンメル大使の表情を横目に見た。
決断をしかねている大使に、アーヴァインは話した。
「大使、僕か、一緒に来ている高級官僚アレン・ローバトのどちらかが、リノアの近くにいるようにします。交代でリノアの警備をティンバー軍と一緒に行います。そうすれば、警備も厚くなるし、ね、隊長?」

この言葉を聞いて、今度険しい表情になるのはウィクレー隊長であった。

ロンメル大使は口を開いた。
「ああ、そうしましょう。・・・・・・このことをお嬢様にお知らせします。準備ができ次第、お嬢様をホテルにお届けいたします」

ウィクレー隊長は恭しく頭を下げた。
「ご理解いただいて、何よりです」


アーヴァインはその二人のやりとりを静かに見ていた。


    *   *   *


ガルバディア大使館を訪れた晩。

デリングシティ・クーデターの鎮圧作戦を命じられた、ティンバー軍准将スコール・レオンハートは、ティンバー市街地からオーベール湖東の湖畔にある学園東駅に向かう軍事用列車に揺られていた。爆破されていないところまではなるべく列車で近づくためだ。



スコールが今座っている席は、将校クラス専用の車両の席であり、一般兵の車両に比べ豪奢なつくりになっている。

彼はオーベール湖東の森の地形図を眺めていた。
第16部隊の部下にいくつか指示を出しては、ポイントとなる場所に赤いサインペンで印をつけていた。

ガルバディアで起こったクーデターにティンバーが関わっていると疑われている。
武器の提供や、人の行き来が密かにこの2国間で行われている可能性がある。
鉄道や道路沿いの検問はティンバーの警察や公安隊が行っている。
しかし、ガルバディアへ通じるオーベール湖東の森にいるモンスターは手強い。
そのためティンバー軍がここで警備を行い、行き来する人物がいないかチェックするのである。

一体いつまでこの森にいるのかも分からない。一体いつになったらティンバーに帰ることが出来るのかも分からない。

リノアの護衛が突然ティンバー軍に任されたというのも気になるが……。

アーヴァインがいるので、大丈夫だとは思うが。

その点は安心していいだろう。


スコールは、ティンバーがリノアの警護を引き受けることになったことを知って、すぐにアーヴァインに連絡をした。彼は自分の任務を遂行すべく、その場にいなかったのだ。

自分はティンバーの軍人で、アーヴァインはガルバディアの軍人。
裏切り行為と言われれば、それまでだが……。
ティンバー軍の不穏な動きを、アーヴァインに自分の代わりとなって見張ってもらうしかなかったのだ。

何かあればアーヴァインから連絡がくるだろう。
ロンメル大使にも、連絡先を渡しておいた。

(直接は何もしてやれないが・・・・・・)

スコールは列車に揺られながら、窓から青白く光る月を眺めた。


  *  *  *


ティンバーを離れて2日が経過した。

スコール率いる第16部隊は、オーベール湖東の森、ちょうどガルバディアの国境付近でキャンプをしていた。

スコールは通信機が積まれた装甲車内で、アーヴァインからの連絡を取り合っていた。

『………そんな訳で、リノアは大使館を出て、ティンバー市内のホテルに滞在することになった。僕とアレンも含めてね』

アーヴァインはスコールに今までの経緯を報告していた。

「……そうか。・・・・・それで、大使館に爆発物を投げ込んだ犯人は分かったのか?」

『ああ、それが『森のイタチ』というレジスタンスらしい』

「『森のイタチ』?」

『心当たりあるかい?』

「いや………聞いたことはないが、軍のデータベースにあたってみればわかると思う」

『そうか、ウィクレー隊長の話だと、もう数人は捕まっていて、取調べが行われているそうだよ』

「そうか……。ウィクレーは油断ならないから、用心してくれ」

ここで、アーヴァインの声が途端に小さくなる。
『………うん。ごめん、スコール。人が来たみたい。一端切るよ』

「ああ、わかった」


プツ……


ここで、通信は途切れた。

キャンプにいるスコールに、ティンバー国内から連絡を取るのは非常に難しいことであった。いくらか通信機に細工をして、暗号化を施し衛生経由で通信しなければいけない。

トントン!

「スコール准将!デリングシティから現状報告が入りました!」

通信用車両のドアの向こうから若い兵士の声がした。

スコールはドアの外に出た。


「こちらが、最新のデリングシティの情報です!」

スコールは書類の束を受け取った。


眉間に皺を寄せ、慎重な面持ちで書類に目を落とす。


「………このままでは、デリングシティはかなり厳しい状況にあるかと………」

若い兵士は深刻な表情を浮かべた。

確かに、現状は前に報告を受けたときよりも悪化していた。
このままでは、現ガルバディア政府に大打撃を与えてしまう。

若い兵士は悔しそうな表情で歯をかみしめた。
「提携をしているのであれば、この第16部隊が鎮圧に直接参加できれば………」
そこまで言うと、若い兵士ははっとなって敬礼をした。


「失礼致しました!一般兵の身分で、今自分が言ったことは忘れてください!」

「失礼します!」
そう言って、若い兵士は去っていった。

確かに、彼の言う通りであり、スコール自身もそれに気付いている。

軍事提携をしているのであれば、ガルバディア国境付近にいる16部隊が直接デリングシティに乗り込み、クーデター軍を押さえることができる。

現地に一番近い位置にいて、そして、16部隊は対過激派レジスタンスに特化した特殊部隊とも言える。

ここで、16部隊が直接鎮圧作戦に参加することが最も効率的で、効果がある。

スコール自身も、政府軍が追い込まれたら、自分が率いる16部隊に本部から司令が下ると考えていた。

しかし、なかなかそうはならなかった。

「…………………」

ここで、自分たちが攻め入ればきっとクーデター軍を打ち破ることは出来るかもしれない。
しかし、指令が下りない以上、勝手な行為はゆるされない。

スコールはこの思考からいったん離れ、再び渡された報告書を読むことにした。



ガルバディアの現状が記された報告書をもう少しで読み終えるところだった。

「レオンハート准将!国境付近で不審な人物を2名捕えました!」

駆けつけてきた兵士が敬礼しながら報告をした。

「直ぐに行く」

スコールは立ち上がり、『不審な人物2人』が捕えられているテントの方へ向かった。


    ◇  ◇  ◇


「だーかーら!オレらは確かに怪しいかもしれないけれど、クーデターには何にも関わっていないって!…………いてててて、腹が」

「そうッスよ!俺たちはただ頼まれ事を受けただけっス!」

「そんな見え透いた嘘を言っても無駄だ!」


中から、『聞き覚えがある声』と、部下の兵士が怒鳴り散らす声が聞こえる。


テントの中に入ろうとした途端、スコールは立ち止まった。


「…………いくつか思い当たるふしがある。悪いが、皆は席をはずしてくれないか?」


「「「???」」」

付き添いの兵士たちは「?」と互いに顔を見合わせた。

しかし、軍人たる者、上官の命令は絶対である。


「「「っは!」」」


スコールに付いていた兵士は、テントの中に入り、不審人物2人を拘束していた兵士を外に呼び出した。


完全にテントの中が不審人物2人だけになったことを確認すると、スコールは溜め息をひとつついて、中に入った。

     ◇   ◇   ◇


「「ああーーーー!!」」

両手首を後ろで縛られ、椅子に縛り付けられている二人の人物は大声を上げた。


「静かに!」

スコールは冷徹な瞳で二人を睨む。

椅子に縛られた二人の男は、蛇に睨まれた蛙のように、身を竦めた。


「………何やってんだよ…………」



「スコール。なんとかしてくれよ……。………いてててて、腹が」

「やっぱ、神様っているッスね!こんなところで会えるなんて!」


スコールは額に手をあてて、盛大な溜め息をついた。




「あの兵士たちは俺たちが、クーデター派に加担してティンバーから密輸送しているって言ってるけど、そうじゃないんだ!」

「そうッスよ!オレたちはガルバディアのマダムにティンバー産の高品質のハーブ
を届けようとしただけッス!」

「そうやって事情を話しても全然聞いてもらえないんだよ!確かに、無断で国境を渡ろうとしたのは謝るけどさ………あー、トイレに行きてえ………」



「…………で、なぜこんなところにいる?」

ゾーンの要望をあっさり無視して、スコールは尋ねた。

「コトのはじまりは、先週届いたある一通の手紙っス」

「……手紙?」
スコールは、眉根を寄せながら椅子に腰掛けた。


「そうだよ。その証拠に、その手紙は今オレが持ってる」

ゾーンはきっぱりと言った。

この目つきからして、どうやら何かを依頼する手紙が届いたというのは本当らしい。

「オレの内側胸ポケットに入っている。読んでもいいぜ」


スコールは立ち上がり、椅子に縛られたワッツの胸に巻き付けられたロープを少し緩めてやった。

そして、内側の胸ポケットから、一通の封筒を取り出す。


ティンバー フクロウ運送会社 様


「フクロウ運送会社?」

スコールは宛名にまずひっかかった。


「それは、オレとワッツが立ち上げた運送会社!あの、アジトだった列車を改造して、運送会社を始めたわけ!オレが社長な!」

「俺が副社長っス!………と言っても、社員は俺たち二人しかいないッス」


話を聞いていたのは、最初の部分だけで、スコールは封を開けて中を確認した。



「拝啓 フクロウ運送会社様」

突然のお手紙、驚かせてしまったことをお詫び申し上げます。

突然のことで、申し訳ありませんが、どうぞ私のお願いを聞いていただけないでしょうか。

私は数年前より病に冒されています。

医者にも諦められ、静かに床でいづれ来る死を待つ覚悟でいました。

そんな中、ガルバディア産のハーブを友人から勧められました。

驚くことなのですが、これがとても自分の身体に元気を取り戻してくれるのです。

奇跡とはまさにこのことです。それから、私はこのハーブをガルバディアから取り寄せていました。

しかし、最近は税関が厳しく、国営の鉄道で輸送しているととても時間がかかってしまいます。

そこで、お願いがあります。

どうか、ガルバディアからハーブをティンバーまで届けていただけませんか?

出来れば一刻も早く持ってきてもらいたいと思います。私の体力がいつまでもつか分かりませんから。

無理を承知でお願いしておりますので、報償は普通の倍お出ししたいと思います。

別紙にハーブの銘柄と私の家の住所が載っております。こちらをご参考ください。

エレナ・コーラル




「……………………」


スコールは黙って、封筒に手紙を戻し、再びゾーンのポケットに入れた。

「な?オレたち怪しい者じゃないだろ?」

スコールは眉根を寄せてワッツを睨んだ。


はっきり言って、十分怪しい。

特にこの手紙が。


「あんた達、こんな手紙で依頼を受けたのか」
半ば呆れながらスコールは尋ねた。


「こんな手紙って!失礼っスね!オレたちは病魔に冒されて気の毒な御婦人を助けようと思って…………」


「どうせ、報酬は2倍出すというところに目が眩んだのだろう」


「う…………」

どうやら、図星だったらしい。



「それはそうと、どうやってここまで来た?」

ゾーンは答えた。
「この手紙が来て次の日、早速オレたちは自分たちの列車でデリングシティに向かったんだ。そこに書いてあった住所を元に、ハーブの卸業者の倉庫まで行ったんだ。その御婦人と取引は済んでいるらしく、その手紙を見せると、大きな木箱10個ほど渡してきたんだ」

「それで、オレたちはそれを列車に積んで、ティンバーに戻ろうと思ったわけ」




「………だけど」

「………デリングシティ市街地に戻って、これから出発しようと思ったとき、クーデターが勃発!そりゃあ、大変だったんだ。もう、街中パニック」


「こりゃ、変なもんに巻き込まれる前に早くとっととティンバーに戻ろうと、列車に向かったんだけど、そこで、ガルバディアとティンバー間の鉄道が爆破されたって聞いたんだ」


「困ったなーって、ワッツと俺が駅のベンチで座っていたら、レンタカー業者の兄ちゃんが、オーベール湖西の森を経由してティンバーに戻ったら?って教えてくれたんだ」

「それで、俺とワッツはその兄ちゃんの言う通りレンタカーを借りて、この森までやってきたんだ」

「でも、森に入ったら、変なセンサーみたいなのにひっかかって、すぐにティンバー兵がやってきたッス」

「そして、今に至るッス」


「………だいたい事情は分かった……………」

スコールは額を手で覆いながら言った。


「分かってもらってなによりだ。それよりさ、スコール。俺、トイレに行きたいんだ。じゃないと、いててててて、腹が………」


「そっちの用はこっちの用が済んでからだ」


スコールはゾーンの懇願をあっさり無視して話を続けた。



「『森のイタチ』というレジスタンスを知っているか?」



ワッツとゾーンはその言葉に不思議そうな顔をした。


「さあ?知らないな」

「俺も知らないっス。初めて聞いたっス」

「バカな。2日前にガルバディア大使館に爆発物を投げ入れた犯人だぞ」

「いや、分からねえな……」

「本当に心当たりは無いか?」

「本当に知らないっスよ。・・・・・・そんな乱暴なことしたレジスタンスがいるんスか?」


ワッツの言う通りである。
ティンバーのレジスタンスは横同士のつながりが非常に強い。
それなのに、森のフクロウのメンバーは何も知らない。


「………しかし、ティンバー軍から、犯人は『森のイタチ』と報告が上がっている…………」


「う、臭い!ワッツ、お前、屁をこいただろ?!」

「へへ。それは、『森のスカンク』かなんかの間違いじゃないっスか?」


冗談を言える雰囲気ではないこの状況で、スコールはワッツを睨む。


「あ、いやいや。真面目な話、何かの間違いじゃないッスか?実在するレジスタンスなんスか?」


「……………この件は、後で確認してみる。受け取った箱の中身は確認したか?」

ゾーンは首を横に振った。
「いや、開けてない。卸売りのオヤジの話だと、箱は開けてはダメらしいんだ。ハーブの鮮度が下がるとかどうとかで………だから、オレたちは開けていない」

「けっこう重かったスね……。瓶詰めでもされているのかなと思ったっス」


「……………中身を確認させてもらう」


スコールはそれだけ言って、テントから出て行った。


外で待っていた兵士に、ゾーンにトイレまで案内するように言いつけた。


「助かったあ……ああ、いててててて」

「中身を確認しても、てんこもりのハーブしかないッスけど………」

ワッツと共に、彼らが乗ってきた車に向かう。

スコールはワッツとゾーンが乗ってきたレンタカーの荷台のドアを開けた。

そして中に立ち入った。

そこには、大きな木箱がいくつも積み重なっていた。

正直、個人がこれだけのハーブを取り寄せること自体不審だ。


「開封厳禁」とスタンプが押された箱は、しっかりと釘が打ち付けられて開けられないようになっている。

スコールは取り出したナイフの刃を木の板の隙間に入れ込み、引き上げて打ち付けられた釘を抜いた。


「……………!!!」


ハーブの銘柄が烙印された木箱の中に入っていた物に、ただ驚くしかなかった。







「スコール准将、どうされました?」


動きが止まったスコールに、彼の背後で待つ兵士が声を掛けた。


「ゾーンの胸ポケットにある手紙の主の住所を調べるんだ」


「はあ?」


「急げ!大至急だ!」



「はい!」

兵士はあわてて駆けていった。



「一体、どういうことだ……?」


スコールは木箱の中に入っていた者を取り出す。



そこには、ガルバディア兵の軍服がぎっしりと詰め込まれていた。


永遠の花 第15章》へ続く